305号室の男。【完】
「う、ううん。行く」



きっと、あたしのことを思って言ってくれてるんだよね。



「そんな顔すんなって。俺は、奈緒を泣かせたいわけじゃねぇんだよ」



大智さんはあたしの顔を覗き込み左手の人差し指で目元に触れた。



あ…たし、泣いてたんだ…。



「ご、ごめんなさいっ。あたし、そんなつもりじゃなくて…」



「あぁ、分かってるって。なぁ、今日は行くのやめよう」



そう言ってあたしから、離れようとした大智さんを



「やっ!!行くのっ!!行かなきゃいけないの…」



両手で大智さんの腕を掴んだ。



この時、大智さんの言う通り行くのを止めれば良かったなんて今更後悔しても遅いよね…。
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