305号室の男。【完】
フリじゃ…、ないんだけど…。



そんなことは口が裂けても、言えなかった。



「ねぇ、君の彼氏いつ帰ってくんの?」



ふいに聞かれ、困った。



「分かんない…、です。コンビニ行っただけだから、すぐ帰ってくると思いますけど…」



知らない男に素直に話す、あたし。



「そっか。早く帰ってきてもらわないと、俺も困るんだけど…。それと敬語いらないから」



“声が止まってる”…、そう言って、あたしの太腿を撫でた。



「んぁっ…、やっ……」



下から上へ撫で上げる、その手にまた声が漏れた。



「ねぇ。もしかして…、本気で感じてるの?」



言わなくてもバレたようで。



「………っ」



あたしは真っ赤になりながら、何も言えなかった。
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