305号室の男。【完】
顔だけ、あたしを見た大智さんに。



「桜さん…、辛かったと思うよ?」



見上げた。



「……そう、だよな…」



ボソリと言った大智さん。



気付けば、あたしは。



「ちゃんと桜さんと、話したら?」



そう声をかけていた。



「え……」



目を大きく開いて驚く大智さんに。



「あたしなら、ちゃんとした理由で別れたいもん。急に好きな人が、いなくなるのはツライことだよ?」



詠二は、前触れもなく突然いなくなった。



桜さんとは状況が違うけど、好きだった人が急に自分の前からいなくなるって、とてもとても苦しいんだよ…。



「奈緒…」



「ん?」



大智さんを見上げると。



「桜と…、話してくる。ちゃんと、別れてくるから」



「うん…、そうしてあげて?」



「あぁ…、すぐ戻る」



大智さんは、出て行った。
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