305号室の男。【完】
きっと詠二を思い出して泣いてしまうかもしれない。



それでもこの人は受け止めてくれるだろうか。



でも、あたしは前に進まなければいけない。



いつまでも過去のことを悲しんでいても始まらない。



だって、詠二はもういないんだから…。



泣いても詠二は、あたしの前には現れない。



そう、永遠に…。



奈緒は大智の目を見て、ゆっくりと話しだした。



震える声で、ゆっくりと…。



そんな奈緒の手を大智はキュッと握って、ただ静かに聞いてくれた。
< 72 / 196 >

この作品をシェア

pagetop