オアシス・カフェ〜三人のプリンス〜

「ーー…っ…ちょっと来い‼︎」


卓人さんは泣き喚く私の腕を掴むと、ビルとビルの間ーー、

人がギリギリ二人並んで歩けるぐらいの路地に引っ張って行った。


背中にざらりとしたビルの壁が当たる。

路地には当然灯りはなく、メインストリートから入る些細な光でぼんやりと辺りが見える程度。

雑音が遠くに感じる。


さっきまで滝のように流れていた涙は、ピタッと止まっていた。

目の前には、息をのむほど綺麗な顔。

それは少し手を伸ばせば届くぐらい近くて、お互いの呼吸が聞こえるほど。

卓人さんは私の顔の横に手を着いて、漆黒の瞳で私をジッと見つめてくる。


何…?

何でこんな態勢になってるの?


「落ち着いた?」

「…は、はい……」


必死に頭の中で今の状況を整理する。

私ったら…あんな人通りが多いところで、子供みたいに泣き喚いて…

「嫌いにならないで」だなんて恥ずかしいこと言って…


さっきまでのことを思い出した途端、一気に顔が熱くなった。




< 147 / 251 >

この作品をシェア

pagetop