オアシス・カフェ〜三人のプリンス〜
「…ハルさん、ごめん。頼んだパンケーキは柚姫ちゃんにあげて」
ポケットから財布を取り出すと、お札をカウンターに置く。
ハルさんの今にも泣きそうな顔が俺の涙腺を刺激した。
込み上げてくるものを必死に飲み込んで、穂花を見ることなく横を通り過ぎる。
穂花の「あ…」という戸惑った声を無視して、俺は店を後にした。
店の前の閑静な広場から路地に入り、メインストリートに出る。
普段はうるさい騒音も、今の俺の耳には入ってこない。
俺はただフラフラと、人の波に乗って行く当てもなく歩いた。
頭の中は、手を繋いだ穂花と男の姿でいっぱいで…
ーーードンッ!
「いってぇな…気を付けろよ‼︎」
「すみません…」
これで何度目か、人にぶつかってよろけた俺は道の端に寄り、ビルの壁に背を付いた。