オアシス・カフェ〜三人のプリンス〜
柚姫ちゃんは不思議な子だ。
今まではハルさんの珈琲が飲みたくて、ハルさんや並木さんと他愛ない話がしたくて、あのカフェに通っていた。
だけど柚姫ちゃんが働き出してからというもの、いつの間にか彼女と話すことが一番の楽しみになっていた。
彼女は特に話が上手なわけではない。
寧ろ口下手な方だと思う。
だけど、なんていうか話しやすいんだよな…
どんなくだらない話でも真剣に耳を傾けて、嬉しそうに、楽しそうに相槌を打ちながら聞いてくれる。
嬉しいことや楽しいことがあったら、無性に彼女に話したくなるんだ。
穂花ではなく…柚姫ちゃんに。
すると、俺が座ってるベンチに少し離れて誰かが腰を下ろす気配を感じた。
誰が来たのか、隣りを見なくてもわかる。
夜風が吹く度にふわっと微かに香る珈琲の香り。
多分、ずっと店にいると、髪に匂いが移るんだろう。
柚姫ちゃんは何も話さず、俺の言葉をただひたすら待っていてくれる。
「あいつ…婚約指輪してなかったな…」
二股をかけられていたことも知らずに、一人で舞い上がって…
ホントだせぇな、俺。
柚姫ちゃんの膝の上においた手は、震えるほど強く握られていて、ちらっと見ると涙を必死に堪えながら何度も何度も首を横に振っていた。