オアシス・カフェ〜三人のプリンス〜
「じゃあ俺はそろそろ。ハルさん、ご馳走様」
遣都さんは会計を済ませ席を立ち上がると、私の横を通り過ぎて入口に向かった。
その時、ふわっと香ったシトラスの香り。
爽やかさがあって、落ち着いた大人の男性のイメージの匂いで、遣都さんにピッタリの香りだった。
ピンクのネクタイといい、この香りといい。
選んでくれる彼女でもいるのかな…
いても全然不思議じゃないよね。
こんなに素敵な人だもん。
…相手の女性が羨ましい。
きっと遣都さんが選んだ女性は凄く素敵なんだろうな。
遣都さんはどんな人を好きになるんだろう。
好きな人の前では、どんな顔で笑うんだろう…
遣都さんはドアに手を掛けると、「あ…」と思い出したかのように振り返った。
「その制服、柚姫ちゃんに凄く似合ってる。可愛いね」
そう言って目尻に皺を寄せ、頬にえくぼを刻んだ。
その幸せ溢れる笑顔に、心臓がドキッと跳ね上がる。
保健室の一件以来どんよりしていた心が、じわじわっと暖かくなっていく。
遣都さんは「じゃあね」と、シトラスの香りを残して店を出て行った。