オアシス・カフェ〜三人のプリンス〜
「お願いがあるの。私の連絡先、卓人に渡してくれないかしら?」
そう言うと、女性は鞄から革製の名刺入れを取り出し、一枚の名刺を半ば強引に手渡してきた。
「えっ?あ、あの…」
「これ渡して、連絡待ってるって伝えてくれるだけでいいから。本当にごめんなさい。でも、あなたしか頼める人いないの」
そう言って、女性は頭を下げて、走って行った。
ただ呆然と、女性の姿が見えなくなるまで、その場で立ち尽くす。
ど、どうしよう…これ。
私にしか頼めないって、私だって卓人さんに話し掛けるの凄く勇気がいるのに…
それに卓人さんのあの様子からして、これを渡したら何て言われるか……
さっきのように鋭く睨まれて、眉間にくっきりと皺を刻んで…
想像するだけでも恐ろしくて、背筋がゾッとする。
はぁ…何で受け取っちゃったんだろう…
強引だったとはいえ、断れなかった自分が憎い…