はやくだきしめて
東雲兄妹が数学(主に兄)や国語(両方)、英語(主に兄)に悶絶するうちに、
まどからみえる景色は暗くなりはじめていた。
カラスがかあかあとないて、山近くに飛んでいく。
春はあけぼの。
やうやうしろくなりゆくやまぎわ、だったか?
ちょっと、あやしい。
テスト前でもないのに真剣に勉強したせいか、
はたまた、東雲ママが出してくれるくっそ甘いケーキの数々にやられたのか、ひどい頭痛で。
「波留ちゃん!! ここも!」
「おうおう、どこ? これか、これはな」
そういえば、妹ちゃんは俺の呼び方を
"はるくん"
から
"はるちゃん"
に変化させていた。
一方兄の方は頑張る妹をよそに、そのとなりで熟睡していた。
熟睡していた。(大事なことなので)
「きよか〜? 小野寺くん、引き止めたらだめでしょ? もう暗いんだからそのへんにしときなさい、ね?」
兄の部屋のドアを20センチほどあけて、綺麗なママさんが顔を出す。
東雲ママは、高校生の親にしては若く見える。
うちの母親は、30過ぎてから俺を産んでいて、おばさんだから。
その効果で、若く見えることを考えても、若くて綺麗なお母さんだった。
「全然大丈夫ですよ。教えるのも楽しいです」
「そう? それならいいんだけど、もうすぐ7時回っちゃうから、そろそろ帰らないと、だめじゃないかな?」
そんなことまで気にしてもらえるなんて、うちの鬼婆とは大違い()で、やさしい。
「やだ、わたしまだはるちゃんといたいー」
ママがリビングに戻るのを見計らって、きよかちゃんが俺の腕に抱きつく。
幼いその行為に不意にどきっとした。
かわいらしい。
俺にも妹がいたら、こんな感じなのか、と兄気分を味わったところでおいとまさせていただいた。