結婚の賞味期限 人生の消費期限【完】
いつもならただなすがままなのに、彼の背中に腕を回してしがみついた。

お互いの隙間がなくなって密着すると、彼の欲望の証に気が付きぎょっとする。


そんな私のわずかなビクつきに気が付いたみずき君が、

ゆっくりと唇を離してくすくすと笑った。

私の髪に指が差し入れられ、何度も丁寧に撫でつけられる。


「そういえば朝からは…

一度もなかったね。たぶん」

「…」

「試してみよっか?それとも…」

敏感になった耳元でその続きの言葉をささやかれて…

私は躰を引いた。


「それは無理…」

「そんなことないよ。大丈夫、ひなさんとってもきれいなんだから…」

「絶対にむりむり…」

無理難題を吹っかけて、それに動揺して首をふる私を興味深げに眺めている。

それから身を引いた私の躰をもう一度

有無も言わさぬ力で自分の方に引き寄せ、

わざと敏感な耳元に向かって

「ねぇ、いいでしょ。シよ?」

了承も得ないまま彼の指がゆっくりと私の部屋着のボタンにかかる。

私は何も言わず、その指に掌を重ねて動きを止めようとする。

すると彼がこちらをじっと優しい眼差しで見つめてきた。

動かない瞳に息をするのを忘れそうになる。

瞳だけじゃなくって、身も心も囚われていく。

いつしか掌の力が抜け、明るい日の光の中私は彼に全てを明け渡した。
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