結婚の賞味期限 人生の消費期限【完】
「ひな…

ひな…

アイシテル」


跳ね上がった鼓動がいくぶんか落ち着いた頃、

みずき君が私の髪をゆっくりとやさしく

繰り返し撫でつけながらささやいた。

その低く心地いい声に目を閉じたまま耳を傾ける。


こんなに幸せな気持ちに満たされた瞬間(とき)がある。


みずき君は、最初からその心の内を二人の時は

包み隠さずさらけ出してくれる。

巧みな甘い言葉ではなくっても、率直に愛の言葉を囁いてくれる。

態度でも、仕草でもその溢れ出る愛情を知ることはもちろんできたが、

私にとって、この繰り返し耳元で言われ続けることが何よりも大切だった。

言葉で伝えられること…

それは新鮮な事だった。


それは今、女として…

人間として…

自信を少しずつ少しずつ取り戻すことになっている。

彼に出逢って私は初めて生まれてよかった。

生きていて、色々あったけど生き続けてよかった…

そうしみじみと思う。

だから、このまま彼の側で…

赦されるならその限り彼の側で、大切な家族と生きていく。

ただそれだけのことが、どれほどの幸せか、

今日改めて思い知らされた。
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