キライノカケラ
そんなある日のことだった。

パパとおかあさんが神妙な顔で アタシたちも座るように言った。

「実は こんな時期に転勤の話が来てしまって
今まで転勤は避けてきたんだけど これが最後なんだ。
本当はもっともっと転勤をたくさんして
もっともっと上に行きたかったけど……
諦めてきたんだ……おかあさんとも話し合って
申し訳ない 単身赴任で行かせてもらえないだろうか」

パパは頭を下げた。

「アタシは……アタシは今までずっとそばにいてもらったし
パパの仕事を犠牲にしてることも わかってたから……
これが最後のチャンスなら 行ってきて!!」

パパは笑顔になって アタシを見て

「ありがとう キョン……」と涙ぐんだ。

「ちょっと待って とうさん」

千尋が声を出した。


「かあさんは?」

「おまえたちがいるから おかあさんには残ってもらうよ。」

心なしか寂しそうな顔のおかあさん

「それは おかしいよ」千尋が立ち上がった。
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