毒舌に惑わされて
掴む手をどかそうとさらに掴んだ。


「簡単に帰さないよ」


「何の権利があって、そんなこと言うの? 冗談じゃない。帰るわ。早く離してよ」


見つめ合うこと…いや、睨み合うこと数十秒。


「やめた、やめた。好きでもない女抱いても虚しいだけだ…ほら、帰れよ」


聖也は掴む手を離して、私の背中を押す。私は首を後ろに向けた。


「きっと聖也にも運命の人が現れるよ。いつまでも落ち込んでないで、頑張って」


「お前、運命の人を待ってるの? なら、早く見つけた方がいいぜ。もういい年なんだから」


人が慰めてあげたというのに、嫌みをいうなんてほんと生意気。私は返事をしないで、聖也の部屋を出た。


もう会うことはないはず。

生意気な年下は私には合わないことがよく分かった。

私の運命の人はどこにいるのだろう。

神様、早く会わせてください。

空を見上げれば、もう少しでまん丸になりそうな月が輝いていた。
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