時猫
あれから、何年の月日が経ったであろうか。時猫はあの後、沖田の記憶を再び消そうとしたが、やはり消えなかったのか。それとも、消そうとしなかったのか。
沖田は、椿の事をしっかりと覚えていた。土方はもちろん、近藤や他の人は皆、椿を忘れていた。
──慶応四年五月三十日。
沖田は、重い体を起こした。死ぬ前にやりたい事がある。あの時の返事を。
伝えたい言葉が…。想いが…。
”私も、好きです“
「短くてごめんなさい……椿さん」
最期の力を振り絞った。
伝わるという保障はない。
しかし、ほんの少しの可能性を信じて。
チリン……
いつか聞いた事のある鈴の音を最後に、沖田は、ひっそりと息を引き取った。
【番外編】-君を想う- 終わり