時猫
その言い方にまたムッとしたが、斎藤と呼ばれた男がさっさと出て行くから椿は慌てて追い掛ける。
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」
「お前の為に時間を使うほど、俺は暇じゃない。早く来い」
「そんな怒らなくだっていいじゃないの…」
ふう…とため息をつく。
「ねぇ、名前は?何て言うの?」
「……。怪しい女に名乗りたくない」
「は?私の名前は知ってるのに、何で教えてくれないの?他の人達は、教えてくれたわ」
暫く沈黙が続く。
「……斎藤一」
相変わらずの真顔で答える斎藤。
歩いているうちに、一つの襖の前で立ち止まる。
「ここだ。入れ」
「見張りは誰がやるの?」
「…そろそろ、誰かが来るはずだ。それまで俺がいる」