時猫
「な、何…」
「……」
男は言葉を探しているようだった。
椿はまた涙が出そうになったから、顔を下に向ける。
すると、男は椿の真正面に移動して、今度は両手で椿の両肩をポンッと叩いた。
その拍子に、ビクッと椿の顔が上がる。
「おまんに何があったか…。わしは知らん。けんど…」
「…?」
「おなごは、笑ってた方がええが」
「…っ!」
そう言った男の顔は、優しかった。
そしてその言葉が、心に響いた気がした。
「ほんじゃ、わしは行くき」
「あ…。待って!」
そそくさと行こうとする男を、椿は呼び止める。
男はパッと振り返り、明るい笑顔を見せた。