花言葉が紡ぐ恋~大人の恋愛編~
家族で芝居を見せながら旅をする私が、出雲(今の島根県)の国の旗本の息子さんである豊内蔵之助さんと出会ったのは、京の都で鳥羽・伏見の戦いが勃発した頃だった。
出雲に入ったその日、買い出しがてら歩いていたとき見つけた迷子の女の子が蔵之助さんのお家で女中をしている人の子供だったのが縁で、御礼としてうちの芝居を見に来てくれるうちに恋仲になった。
けれど旗本の息子と芝居一座の娘じゃ反対されるのは目に見えてるし、私は数ヵ月すればまた旅に出る。
一緒になる事は出来ないと初めから分かっていた恋だった。
それでも秘められなかった。
だから会えるときは一生忘れないように心に刻みこもう。
頭を軽く振って暗い考えを吹き飛ばして首を少し右に傾けた。
暗に口づけを望む私に蔵之助さんは優しく微笑んで唇を合わせた。
「……ン…ぁ…」
身体の芯を震わせる深い口づけに、彼の胸元辺りの着物にシワをよせて抱きついて、夢中で舌を絡ませる。
「はぁ…お香、いいか?」
「ん」
欲に濡れた瞳で覗かれて、私も早く1つになりたくて恥じらいを捨てて帯を解いて腰紐に手をかけた。
その手を私の柔らかい手とは違う硬くて節くれだった手が掴んで近くの桜の木に縫い付けられて、強かに打ち付けた背中に痛みを感じる間もなく花芽から走った刺激に腰を揺らめかせた。