花言葉が紡ぐ恋~大人の恋愛編~
「………ご免なさい、蔵之助さん」
着物を整え彼の足と腕に囲われて、夕陽に横顔を赤く染めながら私はゆっくり彼の頬に手を当てて小さく謝った。
「お…こう?」
訝しげに手を伸ばす蔵之助さんに目に涙を浮かべてそれでも微笑んで彼の首裏に手刀を入れて気絶させた。
「ご免なさい、蔵之助さん。こうして会えるのは今日で最後」
明日の朝出雲を発つと昨日父に言われた。
「出会って三月(みつき)。大っぴらに付き合う事は出来なかったけどとても幸せでした。………離れても私はずっと貴方を想ってます。
………………さようなら、蔵之助さん」
もっともっと言いたい事はあるけど、これ以上いたら離れられなくなってしまう。
考えても仕方の無い事だけど、立場が逆だったなら……。
私が旗本の娘で、彼が芝居の一座だったのなら、私は身分を捨てて彼についていったのに。
嗚咽をあげ、涙で歪む視界の中辺り一面に咲くハコベで作った指飾りを彼の指にはめる。
そうして立ち止まり振り返りそうになるのを必死で耐えて、来たときよりも早く走って家族の待つ宿に帰った。