もしも、Ver.1
「なんか、悪化してない?」
愛に怪訝そうな顔をされて、俯く。
「・・・すいません。」
そう答えた声もガラガラで、更に情けなくなってくる。
・・・あー、でも練習中はマスク外さなきゃなぁ。
マスクを顎までずらし、カサカサになる喉に水を流し込む。
「う"う"んっ。・・・あ゛ー。」
咳払いをしても、切れない。
あー、嫌だこの声。
「おー、優斗。はよ。」
その名前に背中が伸びる。
「はよ。お前、焼けたな。」
「あー、昨日海行ったんだよ。」
「練習終わってから?
なんだよ、誘えよ。」
笑いながら教室に入ってくる。
あ、どうしよ。
声聞かれたくない。
優斗の姿が見えた瞬間、息が止まる。
近くなるにつれて鼓動が速くなる。
目が合えば、頭の中が真っ白になる。
いつになっても、慣れない。
頭の中は真っ白なのに、優斗から目はそらせない。
「はよ。」
「・・・おはよ。」
ガラガラの声を聞かれたくなくて。
地声を出さずに言う。
あー、練習中どうしよう。
声聞かれたくないなぁ。
でも出さなきゃ、先生や観てる人達に聞こえないし。
やっぱり、地声出さなきゃダメだよね。
「おい、もう始まるぞ!?」
その声で顔を上げると、優斗が走って教室を出てしまっていた。
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