もしも、Ver.1
なんだなんだ、と周りがざわつく。
「何?どーしたの。」
達哉君が、さっき声を上げた人に歩み寄る。
「いや、忘れもんだって。」
「はぁ?練習始まるってのに?」
そうこうしてる間に、
「はーい、おはよう。」
あぁ、先生来ちゃった。
さすがは紳士な達哉君が先生に説明して、優斗のシーンは後でやることになった。
皆準備を整え始めてテンションが上がってきたのか、更に騒がしくなる。
ーーーーーーーーーーーーーーー・・・ガラッ
だから、この音に反応するのは私だけ。
「あっ!お前!」
トイレから帰ってきた男の子の呼び止めには応じないで、息を切らして入ってくる。
そのまま、私の前を通り過ぎて・・・
バサッ
「・・・ん?」
座ってた私の膝の上に落ちてきたのは。
『ゆずかりん のど飴』と大きく書かれた袋。
勢いよく顔をあげれば、優斗は一度も足を止めることなく
立ち位置に向かって行ってしまっていた。
「ぶはっ、お前めっちゃ息切れてんじゃん。」
「・・・うっせ。」
そう呟いて、肩で拭う。
・・・優斗、汗だくだ。
「!」
目が合えば、気まずそうに目線を外して。
『マスクしてろ。』
小さく口パクをする。
あ、やばい。
これ、食べるのもったいない。
END