恋の賞味期限 愛の消費期限(Berry’s版)【完】
「ひなぁ」

彼は、私の耳に唇を寄せてくる。ふわっとライムの香りが私を包む。

耳たぶを前歯で甘噛みし、ざらっとした舌で耳の中を掻き回すと
クチュ、ピチャッといやらしい大音響で頭の中に浸み込んでくる。

その音に私の鼓動はどうしようもなく暴れ始め、耳の中がグワングワンいう。

いやらしい音と鼓動のリズムが混ざり合って加速していく中、
意地悪な舌は耳元を責めたてる。

私の躰が弓なりになり、頭の中から、全ての思考が消えていく。

ここにはもう、悩んでいる私も、罪悪感を感じている私も、
もう一度信じようとしている私も…
何もない。

快感を与えあうお互いがいるだけ。
惹かれあう二人が、ただ二人だけになる瞬間。
私はそういう自分が無になる時間が好きだった。

嫌な現実が、
残酷な事実が、
目を背けたくなる真実が
分からなくなる時間。

それが彼とならなおさら…だった。



「はぁあ…」

漏れる甘い吐息に彼は勢いを得て執拗にこれでもかと責めたてる。
同時に手のひらは、首から肩、腕を撫で、両手の甲に戻り、
その指を指に絡ませ力強く握りこむ。

その力を頼もしく思いながら私も彼の指を強く握った。
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