恋の賞味期限 愛の消費期限(Berry’s版)【完】
彼がナイフを振り上げたまま動きを止め、私の方にゆっくりと視線を向ける。
その瞳に浮かぶ暗闇の深さに怯えながらも…
それでも私は続けた。

「こんなやつのせいで、あなたがそばにいなくなるのは嫌。
もう一人ぼっちはいやなの!みずき君、お願いだからそばにいて…」

叫んでから私ははっとした。そう、もう一人は嫌だ。

それなのに彼はキッチンから玄関の方に向かって刃物を振りかざしたままあの人を追い詰めた。

緊迫する空気の中私は彼の後ろをもつれる足で必死に追った。
彼には私の声は届いていないのか?今はもう届かないのか…

そう思っていると、ドンと言う音がして後ずさっていたあの人の背中がドアにぶち当たった。
もう逃げ場はない。

「二度と、もう二度と…
僕たちの前に現れるな。ひなに触れるな。今度触れたら…」

私は、その言葉を言い終わる前に彼に駆け寄った。

「もういい。もういいから…」

腰に縋り付いて抱きしめたまま涙があふれた。

「今度触れたらぜったいに殺(ヤ)ッてやる!!!」

彼は素早くドアノブを回し、少し扉を押して乱暴にドアをバンと蹴った。

そのドアから、あの人ははじかれたようにいなくなった。

彼はドアを閉めロックすると、ナイフを持った手をだらりと垂らしハアハア息を上げ
その場に立ち尽くす。

しばらく、私たち二人はそのまま…
そこにいた。

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