恋の賞味期限 愛の消費期限(Berry’s版)【完】
彼は目を見開いて私を見た。しばらく私はその顔を睨み続けていた。

本当は必要。喉から手が出るほどあなたが欲しい。欲しいのよ、でも…

でもね…

この胸の傷をそうやって澄んだ瞳でえぐられ続けるならいい。いらない…

なんて本当は強がりだけどね…

私は笑ってサヨナラしようと思った。

強がって最後くらい微笑んでみよう。ここまででも、彼には感謝しきれないくらいの恩がある。

それなのに、彼は自分が着ていた上着を脱いでそっと私の肩にかけた。

「ごめん…

こんな格好だったのにね…

何も見えてないね。とにかくまず着て」

上から3つほどボタンを優しく留める。はだけていた私の肌を優しい布が包み込んだ。

彼の心が私の傷を包み込んで隠す様に…

ボタンを留めていた手はそのままに彼はしばらく私を寂しそうな顔で見つめていた。

さようなら。私の愛しい人。さようなら。私の可愛い人。

彼が手を引いて、そして戸惑いがちにもう一度私に手を伸ばしてくる。

頑なにそれを拒もうとしても…

心の底から弱々しい手が伸びてきて…

彼の胸に飛び込めと私の背中を押した。


彼の胸にもう一度収まると、そこはやはり暖かかった。力強い腕が背中に回ってくる。

「お願い、ひな。もうどこにもいかないで。一人で産むなんて言わないで…

そばにいるから。ひなさえいたら…

ひなさえいてくれたらもうそれでいいから…」
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