恋の賞味期限 愛の消費期限(Berry’s版)【完】

ただただ、愛おしくて…

「先生、これに上がったら終わるんですよね」

私はひっきりなしに襲ってくるあり得ない痛みをこらえながら、そう叫んだ。

先生は一瞬固まっていたが、くすくすと笑って、

「そのとおりですね、佐々木さん。最後の力を振りしぼって頑張りましょう」

私は、痛みの間の一瞬で分娩台に移る。

それからは、もう我慢することができず

「いきんでもいいですよ…」

の声を聞くか聞かないかのうちに体が勝手にいきみ始めた。

まもなくしてすっきりした直後元気な泣き声が聞こえ

「おめでとうございます」

という声が聞こえる。

「佐々木さん。男の子ですよ」

少しすると黒髪をふさふささせ、くりくりおめめの小さな天使が

バスタオルにくるまれて私の隣にやってきた。

かわいい。やっぱり子どもってかわいい。

もっと色々な感情に襲われると思っていたのに、

ただただ愛おしい気持ちしか沸かなかった。

「ひな、かわいい」

みずき君は、小さな手に人差し指を差し込みながら、満面の笑みで言った。

「うん」

私と赤ちゃんに視線を移し

「目元がひなに似てる」

「そう?」

「うん。ねえ、ひな、大丈夫?」

「うん。まあ、若くないからそれなりよ」

その言葉に、私の頭を優しく撫でる。彼は少し視線を上に向けながら、

「ありがとう。…本当にありがとう」

「うん。こっちこそありがとう」
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