桜色ノ恋謌
思考を中断するように、叩かれたドア。



「咲絢。着替えた?」

「今行く!」



大きい声を出したのは恭哉くんに対しても後ろめたかったから。



でも。



会って気持ちを確かめたいよ、昂くん………。



「随分と軽装じゃね?絶対、虫に刺されるぞ」


虫 !? それはまずい。肌に痕なんか付けられたくない。


「もう一回着替えてくる」

「虫除け持ってきた。上着は俺のを着とけよ」


恭哉くんが自分の長袖の上着を脱いでかけてくれた。


「ありがと。持つ物、何かある?」

「いーや。物はみんな車ん中だから」


恭哉くんからはちょっと距離をおいて後から着いていく。



だって、そうしないとまた……。



「逃げんなって。手ぐらい繋がせろよな」


ほら、こうなる。


「……やだ」

「駄目。繋ぐっつったら繋ぐから」



………強引に繋がされた。


恭哉くんとこうしているのに満足している自分にも戸惑う。



結局あたしはどっちが好きなの !?


分かんなくて、もう叫びたいよ。



「おー。すげぇな」

「本格的だねー!」


ファミリーセットの花火を次々に打ち上げて、一瞬だけの夏休みを楽しんだ。



あたしも一応高校生なんだけどな。



学校行事も何も参加してないから、女子高生と言うより社会人に近いと自分では意識している。


でもたまにはこんな事をして遊んだっていいよね?



「ねー!恭哉くんの高校時代はどんな感じだった?」


何気ない会話のつもりで恭哉くんに尋ねてみた。



「いたってフツー。趣味仲間と遊んだり彼女と……」


そこまで言うと、恭哉くんが黙りこんでしまった。


地雷だったかな?


「人それぞれだからな。咲絢は仕事で充実してるんだろ?ならそれでいいんじゃね?」

「……うん」



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