桜色ノ恋謌
線香花火って意外に奥が深い。


最初は緩やかに始まり、やがて弾けて辺りを照らす。


それから寂しげに落ちる様は、夏の日の一瞬一瞬を見ているようで、儚さを感じさせる。



パチパチと勢いよく花火が弾け出した。


終わらないでよ……。


「うりゃ」

「あっ!」



恭哉くんがあたしの花火に自分のをくっつけた。


「あぁあぁぁ!花火落とした!」


せっかく人が感傷に浸ってたのに!



文句を言ってやりたくて、顔を上げる。


すると真剣な顔をした恭哉くんの視線とぶつかった。


「……咲絢。右手、出して」


言われるがままに素直に右手を差し出した。



小指に伝わるひやりとした感覚。




プラチナとパールのピンキーリングが填められていた。


「恭哉くん、これ……」

「俺、わりと独占欲強いらしいな。お前だけが対象なんだけど」



右手に填める、ピンキーリングの意味……。




「お守りだから。外すなよ?」



さっきとは逆だ。



恭哉くんの声は怖いぐらいなのに、あたしを見つめる瞳は誰よりも優しい瞳。


どうしよう。


むき出しの恋心をぶつけてくる恭哉くんから、逃げることができずにいる。


でも、昂くんとの約束は破りたくない。



……だってあれは、二人で誓った約束だから。


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