桜色ノ恋謌
呆然としたまま、マンションに戻る。



何もしたくなくて、ぺたんと床に座り込む。


そして何分か経った後、震えた携帯。


「はい……」

『咲絢。お疲れさん。お前が出てたテレビは全部録画しといたからな。おふくろが』



恭哉くんだ。



「やだ止めてよ。恥ずかしいんだけど」


恭哉くんの声を聞いたら安心して、なぜか涙が出てきた。


『咲絢、また泣いてんのか?』


そして、恭哉くんは鋭い。

どうして、あたしが泣いてるのが分かるんだろう?



「別にっ。泣いてないし」

『ならいいけど。明日からのドラマは楽しみに観るけど、また辛いことあったら早く言えよ?』

「……うん……」

『明日も仕事だろ?無理すんなよ』



〔無理すんな〕って、恭哉くんは必ず言ってくれる。


「ありがと。あたしは大丈夫。明日も早いから今日は寝るね」

『おう。おやすみ』

「へへ。おやすみなさーい」



ぷつりと通話が切れた携帯をみつめる。






逃げ、かも知れない。



だけど、あたしはそこまで強くはない。





仕事以外では外したことがない、昂くんから貰ったネックレス。








―――ネックレスをそっと外して、ジュエリーボックスの中にしまった………。
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