桜色ノ恋謌
その感慨に浸る間もなく行われた《ぷれしゃすっ!THE MOVIE》の初顔合わせ。


季節は寒い12月。


この寒空でまたあの衣装を着るのかと思うと泣けてくる。



「俺マジ濡れ場に期待してたんですけど、ないんスかね?」


……この天敵を誰かつまみ出して下さい。


「月島くん、幼児から小学生向けの映画だからね。じゃ次、咲絢ちゃんよろしく」


なんであたしが、あんたより後に挨拶しなきゃいけないのよ !? 事務所が大きいからって我が儘言えば通ると思うなよ !?


「現場でも月島くんと一緒なのは……、は、な、は、だ、不本意ですが、役になりきって頑張ります」



それを聞き咎めた脚本家が興味深げに言う。


「現場でもって事は、それ以外でも会ってるって意味?」

「た だ の、クラスメイトです。不本意ですが」


『不本意』を繰り返して、『あたしは嫌なんだけど』と言いたいのを伝えたつもりだ。


「おい『月島くんとヤるのを楽しみにしてました』ぐらい言えねーのかよ」

「言いません。むしろ『離れた場所で静かに暮らせ』とでも言っておきましょうか」


漫才のようなあたしと月島くんのやりとりに、回りのスタッフが笑いこけた。


「なーんか、仲良いんじゃない?」

「まんま《凜》と《行人》だね」


スタッフの皆さんその目は節穴ですか !?

どう見ても蛇とマングースじゃないですか !!



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