桜色ノ恋謌
スケジュールは一つ一つ消化され、撮影本番も後日に控えたクリスマスの日。



高橋さんの計らいか、あたしは夜の7時には仕事を全部終わらせる事ができた。


「明日の朝4時には迎えに来るわ」と言う一言を残して、高橋さんは帰っていった。



「おっかえりなさーい !!! 『あやめ』ちゃん!!」


すでに酔っ払っているのか、梶さんちのおばさんが上機嫌であたしに飛び付いてきた。


ちなみに《あやめ》というのは、《啄木鳥の森》でのあたしの役の名前。


街の中を歩いてても、「あやめちゃん」と知らないおばさんや子供に話しかけられるようになった。


知らない人に役の名前で呼ばれるのは、とても嬉しい。


だってそれだけたくさんの人達が、あたしの演技を認めてくれたんだってありがたくなるもん。



「おふくろ!咲絢をまず座らせてやれよ」

「あー、ごめんね!咲絢ちゃんはこっちね」



すっかり場を仕切っているおばさん、ひたすら飲んでるお父さんと梶さんのおじさん、料理に追われるお母さん。



帰ってきて良かった。



いつもと変わらないクリスマスの風景が、そこにあったから。



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