桜色ノ恋謌
あたしは桜小路さんの方を向いてお言葉を待った。


…………無視、ですか?


まあ想定はしてたけどね!



「……ドラマや映画に1本2本出演(で)たぐらいで、いい気にならないで?」



桜小路様、怖っ!



「それからあなたの一人称、『あたし』というのが気になるわ。『私』とは言えないの?はすっぱみたく感じるの」

「……はぁ……」

「……この世界でやっていきたいなら、言葉ぐらい綺麗に使って?」


桜小路さんはそれだけ言うと、あたし……私を下がらせた。


「分かり、ました……。失礼します」




噂に違わぬ強烈さ、だ。



「お前何時間目から学校にいた?」


昼近くになって登校してきた月島くんが、理科室でサボるあた…私のところにきて聞いてきた。


《ぷれしゃすっ!THE MOVIE》の撮影が終わってからの月島くんは、随分人間的に丸くなった気がする。


「朝からいましたよー。おかげでようやく桜小路様にご挨拶できた」

「は !! マジで?どうだった?」


どうだったって聞かれても……。



「予想通りの人、かなぁ……。太陽のような人だよね」

「アイツそんなに明るいかぁ?」

「じゃなくて。太陽はないと困るけど、近づきすぎると焼け死んじゃうぐらいに強烈って意味で」

「ああ、なるほどね」



紙パックのイチゴミルクを啜ってから、月島くんがぽつんと漏らした。



「お前、次は何やんの、仕事」

「ドラマとかはまだ未定…かな?CMとかを何本か……」

「出てみる?俺らのバラエティー」



……ここで『うん』って言ったら何をされるか、分かったもんじゃないぞ。


仕事は欲しいけど、がっついて墓穴を掘りたくはない。



「事務所を通してくれるかな?私だけじゃ、何とも言えないし」


月島くんは面白くなさげに「ふーん」と呟いた。
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