桜色ノ恋謌
漏れ聞こえるその声は、間違いなく昂くんだ。


『陽菜乃がやりたくないって言ってるんです。クライアントは、それなら咲絢でって……。むしろ咲絢の方が良いと言い出したんです』



全神経を集中させて、電話から聞こえる声に耳を傾けた。



「あなたも大変ね。陽菜乃のマネージャーでもないのに駆り出されて。このままじゃ陽菜乃もあなたの担当する新人も、両方潰れるわよ?」

『分かってるんですが、陽菜乃はマネージャーの言うことも聞かないし……。精神的に不安定なんですよ』

「それはあちこちから聞こえて来てるわ。早めになんとかしなさいよ。CMの方は分かった。咲絢にやらせるから。じゃ」

『……すみません、高橋さん。宜しくお願いします……』



無情にも高橋さんは最後まで聞くことなく通話を切った。


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