桜色ノ恋謌
インターホンを鳴らすと、和生がゲームの攻略本を片手に持って玄関のドアを開けてくれた。


「咲絢いるか?」


挨拶もそこそこに和生に尋ねると「姉ちゃんなら台所だよ」と、素っ気ない応えが返ってくる。


「わり。邪魔する」


靴を脱いで台所に行くと、如月のおばさんと咲絢が仲良く並んで料理を作っていた。


俺の気配に気づいた如月のおばさんが、俺に満面の笑顔を向ける。



「あら、恭哉君も来てくれたの?彼女さんは一緒じゃないの?もしいるなら……」



おばさんの言葉を遮り、俺は咲絢の手首を掴んで廊下に引っ張り出した。


「ちょっ…。恭哉くん、何?」


掴んだ咲絢の手はまだ小さくて、初めて見た赤ん坊の時から成長してないように思える。


俺の後を追いかけては転んで怪我して、いつも泣いてた小さな『さーや』。


「……お前、止めろ。モデルとか止めとけ」




大事な咲絢が芸能界みたいな汚い所で汚されるのは、絶対に嫌だ。




「……なんで、恭哉くんにそんなこと言われなきゃいけないの?」


俺も怒りから低い声で咲絢に命令したけど、それに答える咲絢の声色も決して良いとは言えなかった。


「恭哉くんが高校に行って自分の道を歩いてるように、あたしも自分の道を歩くことに決めたんだから!大体なんの権利があってあたしに命令するわけ !?」



初めてかも知れない。


咲絢が俺の言うことを聞かないなんて。


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