桜色ノ恋謌
車に乗せた時から気づいてた。



咲絢の右手のピンキーリング。


首には、ネックレスが掛けられていない事。



「……そっか……良かったな」


咲絢は再び窓の外に視線を移した。




もうあの頃の咲絢じゃない事ぐらい分かってた。



でも、もしかしたらまだ俺の事を待っててくれるんじゃないかと、期待はしていた。



……俺はとことん甘いよな……。




「荷物はいいです。自分で持てますから」

「そういう訳にもいかないし。部屋どこ?」


諦めたように咲絢がマンションの中を歩きだした。


一人暮らしを始めたのか。



昔は咲絢の事なら何でも把握していたのに、今は咲絢が何を考えているのかさえ分からない。



デビューしたばかりの頃は、ころころ笑ってばかりいたのに。


これ以上変わらないでくれよ。


ずっとあの頃のままでいてほしいんだよ。



「ここ、ですから……」

「あ、そか」



全くの無意識で、俺は部屋の扉を開ける咲絢の手を掴んでいた。



驚く咲絢を部屋の中に入れて、自分も入り込む。



抵抗する咲絢の手首を押さえ付けて、強引に口を塞いだ。


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