桜色ノ恋謌
「……悪い。激しかった?」

「ううん……」


身体中が痛かったけど、なんとか精神的には落ち着いてきた。



「ごめんね。夜遅くにこんな事で呼び出して……」


恭哉が頭をくしゃっと撫でた。


「言ってくれて良かったよ。黙ってられたら疑心暗鬼になるって」

「……私、そんなに器用じゃないもん」


不器用だから、誰か一人にしか応えられない。二人の間を行ったり来たりなんて出来ないよ。


「それならいいけど。浮気されてんじゃねーかっていつも不安になるし、お前に他の男が近付くだけでも嫌なんだよ」

「……うん……」

「……でもなぁ。今日はたまたま空いてたから良かったけど、俺、これからかなり忙しくなりそうなんだ。今までみたいに頻繁には会えなくなりそうなんだよな……」

「……バイト?大学?」


やだよ。恭哉に逢えないと、私は弱いままなんだよ。

「……ようやく仕事が軌道に乗ってきたから……。なんだけどな。それしか言えない」

「なんでよ!教えてよ?私は恭哉に毎日でも逢いたいのに……」

「わざとらしい上目遣いやめれ。犯すぞ」


もうやった癖に!


「……俺の仕事が上手く行くまでは、せめて半年……。逢えない時間が増えると思う」


半年……。なんで……?


「なんで、半年も逢えないの?」



恭哉は寂しそうに笑った。



その笑みは、私が〔将来何になりたいのか〕を聞いた時に見せたものと同じ、だった―――。

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