桜色ノ恋謌
今までは仲がいい兄妹みたいに、喧嘩なんかしたことなかったのに。


咲絢に『勉強教えて』と頼まれれば俺は根気よく教えてやったし、咲絢はそんな俺に逆らうことなんかしなかった。



咲絢に、掴んだ手首を強引に払い除けられた。





「……恭哉くんには彼女さんがいるんだから、今度からはその人を大事にすればいい。あたしはあたしが決めた道を歩いていくんだから」




俺を見上げる咲絢の瞳は強い光を宿していて。


その光にあてられた俺は、何も言えずに再び伸ばした手を引っ込めた。



咲絢といつまで一緒にいられるか、なんてそんなこと今まで全然考えてなかった。


大人になるまでは一緒にいられるとか、漠然と考えてた。


こんな風に、ある日突然、咲絢に手が届かなくなる日がくるなんて……。



「……妹が離れていく時って、こんなに寂しいもんなのかな……?」


「……恭哉くんにとってはあたしは妹、なんだね」



哀しそうに咲絢が笑う。



「いつも俺の後ろで泣いてたじゃん。その咲絢がファッションリーダーかよ。仕事辛かったらいつでも帰ってこいよ」

「モデルやってる間は家から通うからご心配なく」


さっきの哀しげな顔はどこへやら、今度は悪態をついて俺の足を蹴飛ばしてきた。



「その逞しさがありゃ大丈夫だろ。せいぜいボロが出ないように気を付けろ」

「余計なお世話!」



餞別の意味で咲絢の頭を軽く撫でてドキリとする。




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