桜色ノ恋謌
『咲絢ならできるだろ?やってみろよ』

「恭哉はさらっと言うけどさ、とんでもない事なんだよー?ロケ地は東北だし」

『分かってるさ。咲絢が今、潰れそうなくらいに緊張してるってのは。……だけどな……』


だけど、何?


『……咲絢。一回しか言わないからよく聞いて覚えてて。……お前は、もっと先に行け。上に上がれ。チャンスを掴め』

「恭…哉?」


だって、今まで恭哉は〔仕事を辞めろ〕とか〔仕事でも他の男に触らせんな〕とか、そんな事ばっかり言ってたじゃん。



なんで今更そんなこと言うの?



『俺もすぐ咲絢に追い付いて、追い越すから。だから咲絢は行けるとこまで進んどけよ。……いつか、俺の側に立てるように』

「恭哉、意味が分からない……」



どういう意味なの?



『まだ言えない。その時が来たら教えるから』

「……私、この仕事を受けた方がいいって恭哉も思ってるの?」

『チャンスはモノにしろ。頑張れ』



恭哉の口調が確かな目的を持っていることは、なんとなく伝わってきた。





恭哉もこの仕事をやれって言ってくれてるんだ……。




「……分かった。明日、引き受けるって返事をする」

『無理しないで、辛いと思ったら俺に言え。バックアップはしてやるから。……と、休憩終わりだ。切るけど、体調は崩すなよ』

「うん、ありがとう。恭哉もね。おやすみなさい」

『おう。おやすみ』




温かな恭哉の声に替わり、ツー…っと冷たい機械音が流れる。



よし。



躊躇いはあるけど、頑張りますか!




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