桜色ノ恋謌
《孤城落日》のキャスティングが発表され、気合いを入れて臨んだ記者会見。


さすがの桜小路さんも記者達の前では私をこき下ろすことはしなかったけど、一度も目を合わせようとはしなかった。



……それならそれでも構わないよ。



私は私の演技をするだけ、だから。




本読みの時に書き込んだ立ち回りや台詞の間に関しての細かい指示で、台本は真っ黒になった。


この制作チームは、とにかく指示通りにキャスト達を動かそうとする。



一分の無駄も許さない。


キャスト達が表現できるのは演技をしている時だけ。




現場にいる間は四六時中人の顔色や様子を窺いながら仕事に臨んだ。



おかげでまた少し不眠症になってしまった。



一日中緊張しっぱなしだから、しょうがないって言えばしょうがないけど。





本読みから衣装合わせ、ロケハンなどスケジュールは着々と進み、いよいよクランク・インを迎える。



それでなくても《和宮》の着物は絢爛豪華な衣装ばかりだったから、衣装合わせは結構大変だった。




クランク・インしてまず最初に撮るのは、子役達が演じる《和宮》と《天璋院》の、それぞれの幼年期。



それらを全て撮り終えてから、《天璋院》と《和宮》が別々に撮影に入る予定。




1カット1カットをひたすら入念に細かく撮っていく。


御所のシーンだけでも小袿(うちき)を何回も着直さなければならない。だから衣装換えにも当然時間がかかる。



桜小路さんとは現場では、まだ接触していない。



桜小路さんと共演するまでには、なんとか私の中で《和宮》像を確固たるものにしておきたいな。





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