桜色ノ恋謌
大奥の立場で言えば、たとえ宮家の出身である《和宮》でも姑の《天璋院》に物を贈る際は[様]の尊称をつけろと上から目線で嫁をイビりたいのか。



『帝より公方屋敷に送られた文ならば、江戸とはいえ宮如くは御所と同じく渡世するように言い付けられておりき手筈。忘れたとは云わせませぬぞ?』



《和宮》を庇って侍女が《天璋院》に食い下がる。


『御所は御所。ここはここにござりまする』


侍女達の舌戦は続く。



このシーンでは、私と桜小路さんは一言も台詞がない。



表情のみで私と桜小路さんはそれぞれの心情を現さなければならないんだ。



それは不思議と苦にならなかった。


むしろ、肩から重たい荷物が降りた一瞬―――。




……ねぇ、桜小路さん。


入学してから、最初にあなたに挨拶をしなかった私も悪いと思うよ。


でもね、あなたの取り巻き達にイジメられた時、私はボロボロになるくらい辛かった。



たとえあなたが直接やった事ではないにしても、あなたの取り巻き達が私をイジメてたって事は知ってたでしょ?


それを知ってて、あなたはどう思ったの?


私がイジメられるのは当然だと思った?


それとも私があなたに媚びれば良かった?


無表情を装うあなたからは、考えてる事が何も分からないよ。


あなたは、私に対してどう思っているの……?




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