桜色ノ恋謌
「山猫軒……?」


桜小路さんに連れてきてもらったのは、決して可愛いとは言えない山猫の絵が描かれたレストランだった。


「そうよ、山猫軒。童話作家の童話に出てくるレストランなの」


桜小路さんの目が光った!ぎらりって光った!

まさに山猫みたいでかなり怖い!



「嘘よ。ここのレストランは美味しいらしいの。前から来たかったのよね」

「……そうですか」

「あのロケ地でロケをやってくれてラッキーだったわ。この土地は田舎の僻地だから、人の目を気にしなくてもいいしね」


今度は人の目を気にしないことをされるの !?

やだやだ、怖い!


「……そんなに警戒しないで。中に入りましょう?」

「はい……」


中に入ると、いたって普通の田舎のレストランだった。


平日だからか、お客さんは他に一人もいない。



店に入った途端に取り巻きに囲まれるかも、と心配したけど、とりあえずは大丈夫そう…かも。




「私はここのお奨めにするわ。如月さんは?」

「私は、おしるこで……」


だって緊張し過ぎて何も喉を通んないよ!


食べた気しないよ!



「……私、ファミレスにすら一人で入った事が無いのよね」

「そう、なんですか?意外です」


まあ桜小路さんはそういうイメージではないけれど。高級料亭とか三ツ星レストランとかが似合いそう。



店内を見回した桜小路さんは「気楽にして?」なんて言ってくれたけど。


……無理です。
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