桜色ノ恋謌
「今回の映画であなたとダブルキャストと聞いて、最初は正直言うと憎たらしかった。まだ新人の域なのに、私と同格なの?って。でも、あなたは……」

「私は、……なんですか?」



お茶をゆっくり口に含んで、桜小路さんが私を眩しそうに見つめた。


「私が知らない色々な事を知っているのよね」


は?そんなわけないし。


「例えばね、昨日のあのシーンで家茂の手を取ったじゃない?ああいうことって、誰か好きな人がいないとなかなかできないでしょ?」

「まあ……。無意識に、やっちゃったんですけど、ね」

「……私は人を好きになるって事も私はママの顔色を見ながらだから、恋愛なんてしたことないの。『桜小路公佳』のブランドのせいで、誰もがそういう対象としては近寄らない」




桜小路さん、そんなに自由がないの?

今までに好きになった人はいないの?


……そんなの……。


「そんなの、可哀想、です……」


私は恭哉がいてくれるから強くなれた。


迷子になっても、必ず見つけ出してくれた。


昂くんはいつか必ず迎えに来るからと言ってくれた。



人を好きになると言うことが、どれだけ自分を強くしてくれるか。


それを知らないと言うのなら、今の桜小路さんは一人疲れて暗闇で膝を抱えた子供のように思う。


「……桜小路さんは、今までに好きになった人って、いないんですか?」


何とはなく、聞いてみた。


「……恋、も知らないのに、恋愛ドラマに出演したくないの。だから、私は恋愛ドラマには出たことないわ」


可哀想。可哀想だよ、桜小路さん。


「恋って、いいですよ。その人の事を思うだけで強くなれますから。世界が広がります……」


私が真面目にそう言うと、桜小路さんが吹き出した。


「だから如月さんは、私の取り巻き達とは違うのよね。私、あなたに会えて良かった。あなたは私が知らない世界を教えてくれそうなんだもの」


いやいや、無理でしょう!恐れ多い!


「ね、如月さんがお付き合いしてる人ってどんな方?お勤めはどこに?年収は?」


またこの話題かい!


ただの大学生ですって言ったらどんな反応するんだろ?




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