桜色ノ恋謌
「もうすぐ、この現場ともお別れね」


公佳ちゃんは、名残雪がはらはらと舞う冬の終わりの空を見上げて言った。



「……そうだね」


この現場とは、順調に行けばあと3日で私の撮影は終わるはずだ。


この映画を撮ってる間に色んな人の、それぞれの身の上…みたいなことを知った。


自由にならない公佳ちゃんの苦悩、倉木さんの一途な気持ち、それから……高橋さんの、意固地に生きざるを得なくなってしまった過去。



……やっぱダメだよ。このまま東京に戻っても、高橋さんが素直になるとは思えない。


「ね、公佳ちゃん」

「何、改まって」

「この前、公佳ちゃんと一緒に行ったお店、あそこって予約できるかな?」


あそこなら、平日なら今の時期、観光客もいないだろうし落ち着いて話ができそうな気がする。


私だって、どうせ一緒に仕事をするなら鉄仮面な高橋さんより人間味がある高橋さんとやりたいもん。


「多分できると思うけど。どうして?」

「うん、あのね。ちょっと喧嘩してる、知り合い同士の話し合いの場を設けてやりたくて……」

「ああ、そういうこと?大丈夫よ。電話番号教えましょうか?」


公佳ちゃんは、さらさらとメモ帳に番号を書いて教えてくれた。



……あとは、どうやってあの二人を連れ出すか、なんだけどね。
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