桜色ノ恋謌
高橋さんは、ロケ地指定の喫煙所にいた。
高橋さんも煙草を吸うんだ。
昂くんも、あの時こうして車の中でぼんやり煙草を吸ってたっけ……。
マネージャー達が煙草を吸うこと、私は知らなかった。
昂くんのことも、考えてることも、あの時も今も分からない。
あの時、勇気を出して昂くんの気持ちがどこにあるのかを確かめるには、私はまだ子供過ぎて、語る術を持たなくて。
でも、今は違う。
私は高橋さんの事も何も知らない。だけど同じ目線で話し合えれば、きっと何かが変わるはずだよ、高橋さん。
だからね、高橋さんも変わろうよ。
倉木さんから逃げてないでさ。
今から、行こう。
「……高橋さん」
「咲絢、こっちに来ないで?煙草の煙が……」
そんなのどうだっていいってば。
私は一歩一歩、高橋さんに近づいてゆっくりと言った。
「……高橋さんが知りたがってた、私をイジメてた人と、付き合ってる人の名前を教えます」
「咲絢、誰なの!?」
「ここじゃ誰が聞いてるか分かんないし、人の噂になりやすいから別の場所に行きたいんですけど。いいでしょ?」
どうだ、この堂々としたハッタリ振りは!伊達に女優はやってません。
「まあ…場所はそうね、人気がない所だと良いんだけど」
「とってもいいお店を予約しときました。今日、この後で良いですよね?」
紫煙と共に、高橋さんは「ええ」と吐き出した。