桜色ノ恋謌
んで。
山猫軒に着いたら、もう先に倉木さんが来ていてその意気込みに少しのまれそうになった。
けど、倉木さんを見て逃げ出そうとした高橋さんを捕まえ、無理矢理同席させる。
私?私は当然お邪魔虫だから店の外に緊急避難する。
隣の建物は、幸い童話作家の記念館だったから、そこで時間を潰すことにした。
……だって、ここホントに時間を潰せるような施設も何もないし、山の中だからタクシーも通りゃしない。
つまり、倉木さんと高橋さんが話し合いをし終わるまでは私も帰れないんです!
綺麗に光る鉱石の展示物も春夏秋冬の草花もプラネタリウムも、それぞれ二回ぐらいずつ回って見た。そろそろ閉館時間らしいよー。
それでも、まだ高橋さんからは連絡が来ない。
あれ、山の中だからってまさか携帯は圏外!?
心配して携帯を取り出したのと同時に、携帯に着信が入った。
勿論、高橋さんから、だ。
「……もしもし、高橋さん?」
『もしもしじゃないわよ。よくも騙してくれたわね』
「……だって、逃げる高橋さん見たくない」
これは、高橋さんに対しての本音だし。
『おかげで話し合いは終わったわ。戻ってきて?』
高橋さんの、声が少し柔らかくなったみたいだ。
なんだかちょっと安心かも。
「じゃあ、今からそっちに戻ります」
高橋さんからの返事を聞くことなく、私は携帯の通話をプツリと切った。
……どうなったのかな、倉木さんとの話し合い。二人にとって、いい方向に向かえばいいけどな。