桜色ノ恋謌
仕事が欲しい、有名人を上手く使いたい、そんな欲望みたいな雰囲気が、大広間を包んで全く果てしなく空気が澱んでいるみたいだ。



……こんな場所にはいたくない。


昔見た、地獄の餓鬼さながらにそれぞれの思惑通りに参列者達が蠢いている。



あまりの空気の悪さに気分が悪くなり、私はテラスに移動すると高橋さんに告げた。


実際顔色も良くなかったんだろう。



テラスに出て、新鮮な空気を吸ったら幾分かは気分が落ち着いてきた。


ふー、と大きく息を吸って深呼吸したら、後ろからふわりと誰かの腕の中に閉じ込められた。





……誰か、なんて振り返って見なくても分かるよ。



「……恭哉のあほ。なんで今まで無視してたの……?」

「心配かけてごめんな。顔を見せて?」



その声を聞いただけで。


涙腺が弛んで涙は止めどなく落ち続ける。



馬鹿。


もう手を離さないでよ……――。
< 282 / 394 >

この作品をシェア

pagetop