桜色ノ恋謌
だけど今の咲絢は、桜小路公佳とならんで新進気鋭の若手女優として、押しも押されぬ花形女優であるには違いない。


……あれから、咲絢と離れてからは、なんの業績も出せなかった俺に、そんな咲絢のマネージメントを務めさせる辞令は腑に落ちない。



偶然事務所にいた高橋さんを掴まえて、今回の辞令のウラには何があるのかを直接聞いてみた。



すると、高橋さんは現在妊娠2ヶ月目に入ったところで、高齢出産ということもあり、ハードワークなマネージャー職を相手の男性や主治医が辞めるよう説得されているらしい。


高齢出産だとリスクが大きい出産となるため、流産経験が一度ある高橋さん自身も退職を望んでいる、と………。



「それなら咲絢のマネージメントは他のベテランに回りそうですが……?俺なんかでいいんですかね?」


さりげなさを装い、高橋さんに探りを入れてみた。



「咲絢のバックにあの《SIGMA》がついたのよ。これからはSIGMAの専属としての仕事が半端なく増えるでしょうし、SIGMA側の調整役も咲絢に付くことになるわね。だから、うちに来る仕事量も、減らさなきゃいけないの」

「あの《SIGMA》が…ですか?」


今や巷でも有名な企業に成り上がった《SIGMA》。


その名前は、今では若い奴等の間には浸透して知らない奴はいないだろう。



その新鋭のベンチャー企業が、咲絢を専属に?



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