桜色ノ恋謌
だけど、色んな要素を考えれば……。



「恭哉」




すっかり夕陽が沈みきった水平線の彼方を眺めて、私は無意識に口を開いていた。




「……恭哉と、結婚したい」



そうしてしまえば、もう揺れることはないはず。



恭哉と結婚してしまえば、私には選択肢はなくなる。



そうすれば、鳥羽さんだってきっと諦めてくれるよね?


だったら尚更。



「……《如月咲絢》は《梶恭哉》のものだって、証明できるんだもんね?」

「お前は、それでいいのか?」



返事の替わりに恭哉に向かって微笑んだ。



……そうだよ、これが、私の答え。



《昂くん》の事は、もう諦める事にするの。



いつまでも、恭哉くんに片想いしていたあの頃とは違う。


昂くんにご褒美のココアを貰って素直に喜んでいた、あの頃とも違う。




……恭哉と昂くん。



どちらかを選ばなきゃいけない時が、今。



それなら私は、恭哉を選ぶ。




「寒くなってきたな。咲絢の仕事に差し支えるから帰るぞ」



恭哉が腰に腕を回す。その腕に、そっと寄り添った。






海辺を一度だけ振り返り、白く波打つ水面に囁いた。



「……さよなら……」



恭哉の車に乗せられた帰り道、二人とも終始無言で指を絡めあった。


大丈夫。




昂くんへの気持ちは、砂浜に置き去りにしてきたから。

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