桜色ノ恋謌
「……ついたよ」
言われなくても分かってるよ。
ホテルに着いたことぐらい見れば分かるって。
鳥羽さんとそんな最小限の言葉すら交わすのが、嫌だと感じるなんて。
デビューした頃にはそんな事考えてもいなかった。
「車を停めてくるから、咲絢は先に行ってて」
鳥羽さんの言葉に黙って頷き、車に背を向けた。
会場には結構たくさんの人が集まっていて、うちの事務所の人達以外の参列者もかなりいるみたいだ。
早速高橋さんと倉木さんを雛壇の壇上の下で見つけて挨拶に向かおうとした。
だけど、私の右腕は誰かにがしりと掴まれて、身動きが取れなくなってしまった。
誰だろ?
一言の挨拶もなしにそんな事をされたのが不思議に思えたので、相手を確かめる為に振り向いた。
私の腕を掴んでいたのは、陽菜乃ちゃんだった。
それも、物凄い形相をして私を睨んでいる。