桜色ノ恋謌
「咲絢、スタンバイだ」


緊張した鳥羽さんの声で、ハッと我に返った。



いけないいけない。



今日は大勢のメディアも来てるんだから、迂闊な言動は慎まないとね。



ドアを開ける鳥羽さんを無視して、廊下への一歩を踏み出した。




試写会の会場までの短い距離を、公佳ちゃんと一緒に車に乗って移動した。


あんまり話せる時間もないぐらいだったけど、それでも私達のドレスを見たメディアやファンの反応が楽しみだよね…なんてにひ、とお互い笑い合ったりして。





いざ会場に着いて、カーペットの上に二人並んで立つと、焚かれるフラッシュで目眩がしそうだ。



待っていてくれたファンの皆に笑顔を振り撒きながら、公佳ちゃんと二人、手を振って赤い花道を歩いていく。



その前を歩いている監督さんは苦笑いだ。



映画の撮影後に聞いた話だけど、話題としては私と公佳ちゃんは私生活でも仲が悪いらしい…という設定にしてほしかったみたい。



その方が映画の話題にはなるから、という理由なんだそうだけど、いつの間にか仲良くなってしまった私達を見て、『実は仲良しクラスメイト』に路線変更せざるを得なくなったとのこと。



それに月島くんと大地くんが絡んで、今ではティーンズ誌や女性誌にも取り上げられる程仲が良い4人組として、私達は知られているらしい。




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