桜色ノ恋謌
ideal
■再びオーディション
仕事を始めて1年も経つと、さすがにいろんな事に慣れてきた。
今ではどんな悪天候にも過酷なスケジュールにもへこたれないで、にこやかにこなすぐらいのプロ意識だってあるし。
学校のクラスのみんなは高校受験のためにピリピリしてるけど、あたしはこのままの成績をキープしていれば菊司への推薦が確実だったから、受験のために仕事量を減らすことなくモデルとして頑張っている。
でも事務所の社長に言われて塾の他にも空き時間に特別講師は付けられて、勉強三昧ではあるんだけどね。
その社長から呼び出しがかかったのは8月の暑い夏の日のこと。
秋用の撮影が終わったばかりのあたしは、呼び出された理由が分かんないでモヤモヤした。
「ねー昂くん。社長の呼び出しって何?」
1年もの付き合いになると、鳥羽さんとはすっかり友達感覚で話している。
鳥羽さんを名前で呼び出したのはつい最近。
最初の頃は『昂くん』ってあたしが名前で呼ぶと、顔を赤くしてたのが面白かったのに、近ごろでは慣れたのかあんまり反応しなくなった。
つまんないの。